今月の論語 (2025年8月)
聞韶為楽(ぶんしょういがく)

子(し)、齊(せい)に在(あ)りて
韶(しょう)を聞(き)く。
三月(さんがつ)、肉(にく)の味を知らず。
曰(のたま)わく、圖(はか)らざりき、
樂(がく)を爲(な)すことの斯(ここ)に至らんとは。

子在齊聞韶、三月不知肉味。
曰、不圖、爲樂之至於斯也。
(述而第七、仮名論語八四・八五頁)


〔注釈〕先師が斉の国で韶の音楽を楽しまれて三月の間、好きな肉の味もおわかりにならない程だった。そうして言われた。「音楽がこれほどまでに素晴しいものとは思いもよらなかった」

〔和歌〕思ひきや 舜作りましゝ 韶(せう)の音の かくも善(よろ)しく はた美しく      (見尾勝馬)


今月の論語 会長 目黒泰禪

 武満徹作曲の『ノヴェンバー・ステップス』(十一月の階梯)は、ニューヨーク・フィルの創立百二十五周年を記念して委嘱された作品である。一九六七年十一月九日の夜、指揮者小澤征爾によって初演された。小澤は「演奏が始まると、はじめ好奇心でなんとなくざわついていた会場が、音楽の真実さ、強さ、美しさにひっぱられて、みるまにシーンとしちまう」「この音楽は、ぼくの血の中で、肉の中で、心の中で、またぼくがこれまでに得た音楽教養の中で、いちばんしゃべりたかったことをしゃべっている」(『対談と写真 小澤征爾』「棒ふり一人旅」より)と語っている。

 私と家内がこの曲を聴いたのは、その初演から十年程後のNHKテレビである。オーケストラの音色が消えた刹那、尺八・横山勝也と琵琶・鶴田錦史(きんし)によるカデンツァ(独奏者による楽句)が、夕凝(ゆうこ)りの霜月の寂寞(じゃくまく)へいざなう。孔子は斉の国で『韶(しょう)』(舜の徳をたたえた楽曲)の音楽を聴き、「音楽がこれほどまでに素晴しいものとは思いもよらなかった」(述而篇)と言われたが、私も『ノヴェンバー・ステップス』を聴き、尺八と琵琶の音色にこれほど心揺さぶられたことはなかった。じつに日本人の「音(ね)」と「間(ま)」である。

 今年の五月二十四日二十五日、第六十五回世直し祈願萬燈行大会を催行した。安岡正篤先生は、昭和三十五年の第一回大会に「今年今月今日を以てこの大神の御前(おんまえ)に、至心至誠を以て世直し祈願の大会を開き、一燈行(いっとうぎょう)の百燈会(ひゃくとうえ)を誓約致します所以(ゆえん)のものは必ず神明に通じ、神霊の冥鑒(みょうかん)を蒙るものと深く信ずる次第であります」と、神道も仏教も、儒学や聖書さえ包みこんだ『われらの祈り』を捧げた。まさしく日本人の「祈り」である。

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